バンスリ(インド音楽で使われる竹のフルート)で奏でる囁くようなビブラートのメロディを聴くと、脊髄に電気が走ったようにゾクっとせずにいられない。ハリプラサド・チャウラシアが演奏する時、メロディはひとつ別の次元に行ってしまうのだ。パタパタした音をたてるタブラ・ドラムをバックに鳴り響くハリプラサドのサウンドは、幻想的でもあり、風のように軽やかでもあり、そしてスピードと緊張にあふれている。1日12時間、何と1日の半分をバンスリの練習に費やしていたというハリプラサドは、やがて何百にものぼる北インドのラーガ(複雑な規則に基づいて演奏される旋律単位)を完璧にマスターした。ツィター型弦楽器であるサントゥールの名手、シヴクマール・シャルマーとのコラボレーションをきっかけに、ハリプラサドはインド音楽界の第一人者として見なされるようになる。ハリプラサドは、その完璧にコントロールされた音階、幅広いレパートリー、メロディによって、バンスリをインドの古典音楽にもあう格調高い楽器として浸透させた。口で吹いて演奏するバンスリは、かつて不浄なる楽器と考えられていたのだ。